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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)97号の4 判決 1982年11月15日

原告 明石光夫

被告 国 ほか一名

代理人 島村芳見 佐藤恭一 ほか二名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事  実<省略>

理由

一  原告の請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、まず本件各更正及び本件各決定(いずれも本件各裁決により一部取り消された後のもの。以下この項において同じ。)に原告主張の手続的違法があるかどうか、原告の所得金額を過大に認定した違法があるかどうかについて判断する。

1  原告は、所得税法第八三条の規定は事業所得者を利子所得者、配当所得者及び株式の譲渡所得者に比し不当に差別するものであるから憲法第一四条、第八四条に違反すると主張するところ、昭和三九年分の所得税については旧法が適用され(新法附則第二条)、新法第八三条に相当する旧法の規定は旧法第一三条であるから、原告の主張は旧法第一三条及び新法第八三条の規定が憲法第一四条、第八四条に違反するとの主張であると解される。

しかしながら、利子所得、配当所得及び有価証券の譲渡所得に対し、それぞれ分離課税制度(租税特別措置法第三条(但し、昭和三九年分については昭和四〇年法律第三二号による改正前のもの、同四〇、四一年分については昭和四〇年法律第三六号による改正後のもの。))等、源泉選択課税制度(同法第八条の三(但し、前記改正法による改正後のもの。)、但し、昭和三九年分の所得税については同制度の適用はない。)等及び非課税(旧法第六条第六号、新法第九条第一項第一一号)などといつた租税優遇措置がとられているからといつて、それが国の経済政策の一環をなす租税政策について認められる合目的的裁量の範囲内と認められる限りにおいて、違憲の問題を生ずる余地はなく、右裁量は立法府の政策的裁量としての性格上、一見して明白に裁量権の濫用ないし裁量の範囲の逸脱と認められる場合に限つて違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである。そうして租税については、特に公平負担の原則が重視されるべきことはもちろんではあるが、前記課税制度が一見して明白に政策的裁量の濫用ないし裁量の範囲の逸脱と認められるとは解されないから、原告の前記各法条が憲法第一四条に違反するとの主張は理由がない。

また、憲法第八四条に規定する租税法律主義とは、課税要件がすべて法律において明確に定められていなければならないということであるが、その内容も合理的なものでなければならないとの趣旨を含むにしても、前述したところからすれば、旧法第一三条及び新法第八三条が憲法第八四条に違反するといえないことは明らかというべきである。したがつて、この点に関する原告の主張も理由がない。

2  原告は、本件各更正にかかる通知書に理由が付記されていないから違法であると主張する。

しかしながら、原告がいわゆる白色申告者であることは当事者間に争いがないところ、白色申告者の申告額を更正する場合には、その通知書に理由を付記することが法律上要求されているわけではないから、原告の右主張は理由がない。

3  原告は、本件各更正は浅草商工会に対する弾圧の一環としてなされたものであるから違法であると主張する。

<証拠略>を総合すると、原告は、昭和三〇年頃浅草商工会に加入し昭和三二年頃からは同会の役員であつたこと(原告が同会会員であることは、当事者間に争いがない。)、昭和三八年五月頃当時の木村長官は、民商会員の申告水準が相当低く、かつ、調査妨害等により同会員に対する調査を途中で打ち切るということがあつたことを理由に、調査妨害等があつても中途半端に調査を打ち切ることなくその目的を達成すること、納税者の協力が得られない場合には反面調査等で資料を収集すること及び民商事務局員、会員等の立会いは原則として認めないこととの趣旨の通達を発したこと、そして浅草税務署においては、浅草商工会会員には所得税調査カードに<民>との符号をつけて区別していたこと、さらに、同会会員等による調査の立会い、妨害などのトラブルを理由に、同会会員に対し、昭和四一年二月二五日頃には、従来同会事務局員等が税務調査に立会い、その引き延ばしや嫌がらせなどを行つたため今回の納税相談において同会事務局員等の立会いは認めないから納税者各人が積極的に個別の納税相談を行うよう要望する文書を、昭和四二年二月二八日頃には川崎北税務署や荒川税務署管内では民商の会員等が税務署員に対し暴行を加えるなどの妨害をしたが、良識をもつて確定申告を行うよう要望する文書をそれぞれ送付したこと(原告主張の頃同会会員に対し文書が送付されたことは、当事者間に争いがない。)が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。しかしながら、右以上に、原告に対する直接的または間接的な脱会工作等が存在することをうかがわせるに足りる証拠はなく、前記事実のみによつては、いまだ被告署長が原告を調査対象に選定し、本件各更正を行つた理由が浅草商工会の弾圧若しくは原告が同会の会員であることにあつたものと推認することはできない。したがつて、原告の右主張も理由がない。

4  原告は、本件各更正は何らの資料もなくなされたもので、合理的根拠がなく、国税通則法第二四条の要件を欠く違法があると主張する。

本件各更正に至つた経緯について、<証拠略>によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、被告署長は、原告の確定申告書に収入金額、必要経費の記載がなく(この点は当事者間に争いがない。)申告の正確性を調査する必要があつたため、浅草税務署所部係官長谷川は、事前連絡なく昭和四一年一二月一二日原告宅に臨場し(右係官が同月二〇日以前に原告宅に臨場したことは、当事者間に争いがない。)、原告に対し所得税調査に来た旨告げ、収入金額や経費の内訳及びそれらに関する帳簿類の提示を要請したところ、原告は白色申告者で帳簿類はそもそも備え付けていなかつたうえ、売掛けの締切(二〇日)前で忙しかつたこともあつて、「一二月で急ぎの仕事があり時間がないので二〇日過ぎに来るように。」、「今日はだめです。」などと答えるのみで、資料等の提示をしなかつた。右長谷川は、翌年一月下旬再び原告宅に臨場したが、原告が不在のため会うことはできなかつた。そこで、長谷川は、原告の調査協力は得られないと判断して、反面調査に移り、取引金融機関の原告口座への入金状況等から原告の売上先及び売上金額を把握し、実額により把握できなかつた一般経費については、浅草税務署管内で原告と同規模で同種の中級品のスリツパを製造していると認められた青色申告法人一社の同業者率で推計をし、さらに雇人費等は実額で把握して、本件各更正及び本件各決定をなした。以上の事実を認めることができる。原告本人尋問の結果中右認定に反する部分はこれを採用しない。

してみると、被告署長は、原告の所得金額について調査を行つた結果に基づき本件各更正をなしたことは明らかであるから、原告の前記主張は理由がない。

5  原告は、原告に対する質問検査権の行使は、その必要性、原告に対する右必要性の告知及び事前連絡を欠いた違法があると主張する。

しかしながら、旧法第六三条、新法第二三四条に規定する質問検査権の行使に当たり、具体的事情にかんがみ客観的必要性が存する場合には、実定法上特段の定めのない実施の細目については、社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な裁量、選択に委ねられていると解すべきである。ところで本件においては、原告の提出した確定申告書には所得金額の記載しかなくその計算過程が不明で申告の正確性を調査する客観的必要性が存したものと認められる。なお、<証拠略>によれば、当時所得金額の記載しかない申告書も少なからず存在し、かつ、必ずしもそのすべてが調査対象になつたものではないことが認められるが、右のうちから原告が恣意的に調査対象とされたと認めるに足りないこと前述のとおりであるから、原告に対し実際に調査を行うかどうかは、税務職員の合理的な裁量選択の範囲内というべきである。また、質問検査に際し、調査の理由、必要性の具体的告知及び調査実施日時の事前通知は質問検査を行ううえでの法律上一律の要件とされているものではなく、本件においては、原告が白色申告者であること等を考慮しても、合理的な裁量、選択の範囲内にとどまるものと認められるから、原告の右主張は理由がない。

6  原告は、本件各更正は推計の必要性を欠く違法があると主張する。

しかしながら、前記認定によれば、原告にはそもそも帳簿類の備え付けはなく、かつ、原告は浅草税務署所部係官の所得税調査に対して必ずしも協力的ではなかつたことが認められる。この点について、原告本人尋問の結果中には、帳簿はなかつたが、売上先に対する請求書の控え及び仕入先からの請求書または領収書という原始資料は存在し、提示する用意もあつたとの趣旨の部分があるが、一方右本人尋問の結果中には、仕入先からの請求書には支払いが済んでしまえば大して気にもとめないし、その領収書も申告するまで当座は保管しているものの、確定申告は、右売上先に対する請求書の控えの金額を合計して求めた売上金額に所得率を乗じて所得金額を算出していたとの趣旨の部分があるうえ、本件各更正にかかる不服審査及び本訴の段階においても右原始資料は全く提出されていない事実(前者は、<証拠略>により認められ、後者は当裁判所に顕著である。)に照らせば、これを採用することができない。

右認定事実によれば、原告の本件係争各年分の事業所得を実額により算出することは不可能であつたというべきであるから、被告署長が推計によつて事業所得金額を算出して本件各更正を行つたことは違法でないし、本訴においても推計によらざるをえないというべきである。

7  そこで、原告の本件係争各年分の総所得金額について検討する。

本件係争各年分のその他の経費、専従者控除額及び配当所得の金額、昭和三九年分及び同四一年分の売上金額並びに同四〇年分売上金額内訳(被告らの主張2(主位的推計にかかる総所得金額)(二)(1))のうち<1>ないし<6>については、当事者間に争いがないから、以下、昭和四〇年分売上金額のうち古川登に対する一、〇〇〇円の売上げ及び本件係争各年分の算出所得金額について検討する。

(一)  古川登に対する売上金額一、〇〇〇円について

<証拠略>は、鈴木三郎の古川登に対する昭和四三年一〇月一五日付意見聴取書であるところ、同証によれば、同人振出しの小切手(番号AW〇七二八六、額面一、〇〇〇円、昭和四〇年一〇月一日住友銀行浅草支店支払い)は、同人が原告から買い入れたスリツパの代金の支払いにあてられたものであることが認められる。この点について原告本人尋問の結果中には、右小切手は古川登から預かつた浅草商工会の会費であつて、原告の普通預金に入金した後同会に納めたものであるとの趣旨の部分があるが、原告自身、スリツパを近所の者に小売りすることもあることを認めており、また会費であるならば小切手を原告の預金に入金する必要もないのではないかと思われることに照らし、かつ、<証拠略>と対比するときは、これを採用することができない。したがつて、右古川登から受領した一、〇〇〇円は昭和四〇年分の売上金額の一部と認められる。

(二)  本件係争各年分の算出所得金額について

(1) <証拠略>によれば、次の事実が認められる。

東京国税局長は、昭和四三年一二月一八日付で原告の事業所がその管轄区域内に所在する被告署長、荒川税務署長及び下谷税務署長に対し、それぞれの税務署管内でスリツパ製造業(下請けは除く。)を営む個人の青色申告者及び法人のうち、本件係争各年分(法人については、七月一日から翌年六月三〇日までの間に終了する事業年度を当該年分とする。)につき、年間を通して営業をしていないもの及び売上金額が二、〇〇〇万円を超えるものを除いたものの本件係争各年分の売上(収入)金額、売上原価、経費、算出所得金額(売上(収入)金額から売上原価及び経費を控除した金額)(以上の各金額は、最終申告額または更正額で、個人については所得税青色申告決算書、法人については申告にかかる財務諸表に基づくものであるが、申告書上(申告書別表四)において所得金額算出のための調整が行われている場合には、調整の行われた科目欄の記入は調整後の金額によるものである。なお、右のうち「経費」は、個人については所得税青色申告決算書のうち一般経費の合計金額である「経費(一)8計」欄の金額であり、法人については損益計算書のうち一般管理費及び販売費の金額から人件費、地代、家賃及び建物に関する減価償却費を控除した金額である。)所得率を報告するよう求めた。

これに対する被告署長、荒川税務署長及び下谷税務署長の各調査結果によれば、前記条件に該当したものは昭和三九年分については別表三(一)記載の九件、同四〇年分については別表三(二)記載の九件、同四一年分については別表三(三)記載の八件であつた。その売上金額、売上原価、経費、算出所得金額及び所得率は、別表三(一)ないし(三)の各該当欄記載のとおりである(なお、別表三(一)昭和三九年分「え」の売上金額は一、四二三万四、一三二円、「ア」の所得率は一五・一一、平均所得率は二三・九七が正しく、同じく(三)昭和四一年分「え、に以外の平均」は二二・七八が正しい。)。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、本件同業者は、売上金額を二、〇〇〇万円以下として大規模業者を除外し、原告の事業所が所在する浅草税務署管内及び右に近接する荒川税務署、下谷税務署各管内(なお、<証拠略>によれば、荒川税務署管内を中心として右三税務署管内にスリツパ製造業者が集中していることが認められる。)で原告と同様にスリツパ製造業を営む個人の青色申告者及び法人であり、そのうち法人については、個人業者との間に合理的に調整、換算がなされているのであるから、一応同業者の抽出基準に合理性があり、かつ、その抽出の過程においても恣意の介在する余地がなく、さらに、右同業者の抽出数(八ないし九件)も一応資料の客観性を与えるに足りるものであることも認めることができる。そして、原告について同業者の平均値を適用するのが不適当と認められる特殊事情が存すれば格別、そうではなくて平均値による推計が許容される場合には、当該同業者間に通常存在する程度の営業条件等の差異は、右平均値の中に捨象されるものと考えざるをえないところ、本件においては原告における特殊事情の存在については何ら主張、立証がなく、かつ、合理的基準により一定程度の同業者が抽出されていること前記のとおりであるから、原告主張のような諸条件(立地条件、経営内容等)が同一か否か明らかでないとしても(原告は、後述以外の条件については単に同一か否か明らかでない旨を主張するのみで、それらの条件が所得率に及ぼす影響については主張、立証をしていない。)、また、原告と本件同業者との間での売上金額の差異(本件同業者の売上金額は、本件係争各年分を通じて原告の売上金額の約〇・八九倍から約三・四九倍であるが、所得率との間に顕著な相関関係は認められない。)若しくは本件同業者中の法人と個人との間での所得率の差異(本件係争各年分において個人よりも法人の方が平均で約五パーセントないし約九パーセント高い。原告は、一般に個人よりも同種の法人の方が所得率において勝るのがわが国における実情であると主張するが、本件同業者における右差異のみでは、そのように推認するには足らないし、その他右主張を認めるに足りる証拠はない。)があるとしても、右程度の差異においては、同業者の平均値の中に捨象されうる範囲内と認められるから、本件同業者を平均所得率算出の基礎となし得ないとする理由はない。

なお、原告本人尋問の結果中には、本件同業者中「え」、「に」は超高級スリツパまたは特殊スリツパを製造しており、原告と事業内容において異なるとの趣旨の部分があるが、これのみではそのような事実を認めるには足らないし、他にそのような事実を認めるべき証拠は存在しない。

さらに、原告は、本件同業者を青色申告者に限定したことをもつて、右推計が不合理であると主張するが、<証拠略>によれば本件同業者の経費等は青色申告の特典が与えられる前の数値であると認められるから、白色申告と経費の種類及び範囲が異なることをもつて不合理とはいえない。

(2) そこで、本件係争各年分の算出所得金額を算出する。<証拠略>によれば、原告の売上金額は昭和三九年分が四七二万七、五九五円、同四〇年分が五四〇万四、二一一円、同四一年分が七〇七万〇、五五九円となるから、これに、別表三(一)ないし(三)記載のとおりとなる本件同業者の平均所得率、昭和三九年分二三・九七パーセント、同四〇年分二二・九五パーセント、同四一年分二六・一六パーセントをそれぞれ乗じて算出すると、本件係争各年分の算出所得金額は、昭和三九年分一一三万三、二〇四円、同四〇年分一二四万〇、二六六円及び同四一年分一八四万九、六五八円となる。

8  したがつて、本件係争各年分につき、右算出所得金額からその他の経費、専従者控除額をそれぞれ控除し、配当所得金額及び譲渡所得金額(昭和四一年分のみ)を加えて総所得金額を算出すると、昭和三九年分五七万五、九一三円、同四〇年分五四万四、五九一円、同四一年分八七万六、二九八円となり、右金額は本件各更正の金額と同額ないしそれを超えるから、本件各更正には、原告の所得金額を過大に認定した違法はない。

9  以上の次第であるから、本件各更正には、原告主張の手続的違法及び実体的違法はなく、本件各更正及びこれを前提とした本件各決定は適法であるから、被告署長に対する本件各更正及び本件各決定の取消請求はいずれも理由がない。

三  次に、被告国に対する請求のその余の違法事由等について判断する。

1  原告は、本件各異議決定の通知書にはごく形式的、結論的な記載しかなされていない理由不備の違法があると主張する。

そこで検討するに、昭和四五年法律第八号による改正前の国税通則法第七五条、行政不服審査法第四八条、第四一条第一項において異議決定の通知書に理由を付記しなければならないとしているのは、異議審理庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、異議申立人に争訟の便宜を与えることにあると解されるから、その理由の記載は、異議申立人の不服の事由に対応して、その結論に到達した過程を明らかにしなければならないものである。そこで本件についてこれを見るに、<証拠略>は本件各異議決定にかかる異議申立決定書であるところ、右各証によれば、異議申立ての理由は、いずれも<1>更正通知書に更正の理由が付記されていない違法がある、<2>事業所得金額の認定が過大である、というものであり、それに対して各異議申立決定書に付記された理由は、いずれも<1>については、「原処分は、税法および国税通則法に定められた所定の手続きによつてされたものであり違法の点はありません。」、<2>については、「異議申立ての調査において、帳簿書類の提示がなく、また質問に対する回答も得られませんでした。止むを得ず下記のとおり所得金額を算定しますと、事業所得金額は原処分一、四一九、六〇〇円(但し、これは昭和三九年分異議申立決定書におけるものであり、同四〇年分は、一、四〇六、〇〇〇円、同四一年分は一、五三六、〇〇〇円である。)を上廻る」、「1収入金額については、取引先等の調査によりこれを確認して算定しました。2必要経費額については、同業種の同規模程度の業者の平均的と認められる経費割合を勘案して算定した額に雇人費および専従者控除額を加算して必要経費額としました。3所得金額については、1の収入金額から2の必要経費額を控除して算出しました。」というものであつたことが認められる。そして、右付記された理由によれば、前記理由付記を必要とする法の要請をみたしていると認められるから、原告の右主張は理由がない。

2  原告は、本件各更正それ自体(以下同じ。)が推計の合理性もなく過大に認定してされた違法があると主張する。

そして、本件各更正においては総所得金額を昭和三九年分一四二万六、五〇〇円、同四〇年分一四一万五、〇〇〇円、同四一年分一五二万五、七三六円と認定し、これに基づき本件各決定もなしているところ、右各金額は、いずれも前記二で認定した本件係争各年分の総所得金額を超えるものであるから、本件各更正及び本件各決定は、原告の総所得金額を過大に認定した違法があることになる。したがつて、本件各更正及び本件各決定に対する異議申立てを棄却した本件各異議決定にも同様の違法があり、さらに、<証拠略>によれば、被告署長は本件各異議決定に基づき本件係争各年分の国税滞納を理由に昭和四二年一〇月二六日付で原告所有の宅地を差押えたことが認められるところ、右差押えも前記認定にかかる総所得金額を超える部分については違法というべきである。

3  そこで、右本件各更正、本件各決定、本件各異議決定及び差押えをなした浅草税務署長の故意または過失の有無について判断するに、本件各更正が浅草商工会を弾圧する一環としてなされたとの主張を認めるに足りないこと前記二3のとおりであり、また、本件各更正は、帳簿等に基づく実額課税ができなかつたため、原告と同規模で同種の中級のスリツパを製造していると認められた青色申告法人一社の同業者率による推計によつたのであつて、一応の根拠に基づいていると推認されるのであるから、結果的には総所得金額を過大に認定した違法があると判断されても、右推計等において一見明白な事実誤認等が認められれば格別、そうでない限り、直ちに右署長に故意過失があつたと推認することはできない。そして、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

4  その他原告の主張の理由のないことは、前判示したところから明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告国に対する請求は理由がない。

四  以上によれば、本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田耕三 原健三郎 揖斐潔)

別表一ないし三 <略>

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